5.4兆円の介入は「焼け石に水」——円はまた160円に戻る、と私が読む4つの理由

2026年4月30日夜、政府・日銀が為替介入を実施した。規模は5.4兆円規模と推定され、2024年7月以来の円買い介入である。

介入直前、ドル円は160円台後半まで円安が進んでいた。介入後、円は5時間ほどで5円ほど急騰し、一時155円台半ばまで戻った。本稿執筆時点(2026年5月6日)では156円台で推移している。

ここから先、円はどう動くか。

私の読みは「数週間から数ヶ月で、再び160円方向に向かう」である。今回の介入は、構造的な円安圧力に対する一時的な時間稼ぎに過ぎず、為替の流れを変える効果はない、と見ている。

これは予測ではなく、私の見立てである。為替の世界に確実な予測は存在せず、私はこの分野の専門家でも投資アドバイザーでもない。それでも、経営判断のためには「自分の読み」を持つ必要がある。本稿はその私自身の読みを、根拠とともに公開する形である。

そして、より重要なのは、この読みが当たろうが外れようが、経営者がいま為替に対してどう構えるべきかという論点である。本稿の後半はそこに焦点を当てる。

なお、先日「Fourth Turning論で読む2030年までの経営判断」という記事を書いた。本稿はその延長線上にある——大きな構造的不確実性の中で、目先の為替の動きをどう読むか、という続編に位置する。前記事を読んでいなくても本稿は単独で成立するが、論理的には繋がっている。


直近の動き——5時間で5円という暴れ方

まず、何が起きたかを整理しておく。

4月30日午後3時台、ドル円は1ドル160円70銭近辺まで下落(円安方向)。これは2024年7月以来の安値水準である。

これを受けて、片山さつき財務相が「いよいよ断固たる措置を取るタイミングが近づいている」、三村財務官が「これは最後の退避勧告だ」と、極めて強い口先介入を行った。

そして同日午後7時頃から急速に円高が進み、午後8時台には一時155円台半ばまで急騰した。約5時間で5円という、平常時には考えられない動きである。

5月1日、日銀の当座預金残高見通しから推計された介入規模は5兆〜6兆円(複数報道で5.4兆円)。2024年4月〜7月の介入が合計15.3兆円だったことを踏まえると、一回分としては大規模である。

5月1日夕方にも円が短時間で急騰する場面があり、追加介入の観測が市場に広がっている。本稿執筆時点で、ゴールデンウィーク中の追加介入の可能性を多くのアナリストが指摘している。

つまり、為替市場はいま「介入警戒モード」にある。投機筋は当局との神経戦を強いられ、円安方向への大きな動きが一時的に抑えられている状況だ。

問題は、この「抑え込み」がいつまで続くか、である。


私が「160円に戻る」と読む4つの理由

ここから先は、あくまで私の読みである。

第一に、日米金利差の構造が変わっていない

円安の最大の構造要因は日米金利差である。米Fedの政策金利が高水準で推移する一方、日銀は利上げペースが慎重だ。この金利差がドル買い・円売りの圧力を生み続けている。

直近では、中東情勢(イラン・ホルムズ海峡)を背景に原油価格が上昇し、米Fedの利上げ観測が再燃している。つまり、金利差はむしろ拡大方向に向かう可能性がある。

日銀が6月会合で利上げに踏み切るとの観測もあるが、仮に0.25%程度の利上げがあっても、日米の金利差を埋めるには到底足りない。円安圧力の主因が解消されるわけではない。

第二に、構造的な貿易赤字が円売りを生み続けている

日経新聞も指摘している通り、貿易赤字とデジタル競争力の低迷が、底流の円売り圧力となっている。

日本は原油・LNGを大量に輸入しており、輸入時のドル需要が常に存在する。加えて、デジタルサービス(クラウド、SaaS、広告)の対外赤字が年々拡大しており、これも円売りに直結している。

これらは金融政策では解決できない構造問題である。介入で一時的に円高方向に押し戻せても、構造的な円売りフローが続く限り、必ず元の水準に戻っていく。

第三に、中東情勢が原油高を通じて円安圧力を強める

イラン情勢の不安定化、ホルムズ海峡を巡る緊張は、原油価格の上昇を通じて、日本の輸入コストを増大させる。

日本は原油の中東依存度が高く、地政学的リスクは構造的に円売り材料となる。中東情勢が短期で完全沈静化する見込みは現状ない。

これは日本の政策対応では変えられない。野村総研の分析でも「日本政府は必要に応じて追加介入を実施した上で、イラン情勢と原油市場が安定を取り戻すのを待つ以外にできることはない」と整理されている。

第四に、過去の介入パターンが「数週間から数ヶ月で揺り戻し」を示している

2022年9月、2022年10月、2024年4月〜7月の介入は、いずれも一時的に円高方向に動いた後、数週間から数ヶ月で円安方向に戻っている。

野村総研の木内氏も「為替介入は時間を買う政策」と整理しており、最短数週間、最長数ヶ月の効果しか期待できないと分析している。

日本の1日の為替取引高は約68.9兆円。これに対して介入規模は5兆円台。一回の介入は市場全体の規模に比して小さく、需給を構造的に変えることはできない。

加えて、日本の外貨準備は約200兆円規模で介入余力は潤沢だが、無限ではない。繰り返し打てる弾は限られており、市場はこれも織り込んでいる。


反証シナリオ——私の読みが外れる場合

公平を期すために、私の読みが外れる場合のシナリオも併記する。

Fedの急なハト派転換——米国の景気減速や金融市場の不安定化を受けて、Fedが利下げに転換すれば、日米金利差が縮小し、円高方向に大きく動く可能性がある。これは私の読みを根本から崩すシナリオである。

中東情勢の急速な沈静化——イラン情勢が予想外に短期で安定化し、原油価格が下落すれば、円安圧力の一つが取り除かれる。

安全資産としての円買い——地政学的リスクが急激にエスカレートし、世界的な「リスクオフ」モードに入った場合、安全資産としての円買いが入る可能性がある。皮肉だが、危機の深刻化が円高をもたらすシナリオである。

日銀の予想外のタカ派転換——日銀が想定以上に積極的な利上げに踏み切れば、金利差縮小を通じた円高要因となる。ただし、現状の経済指標を見る限り、これは可能性として高くない。

これらのシナリオが起きれば、私の「160円に戻る」という読みは外れる。経営判断は、一つの読みに賭けるのではなく、複数のシナリオに対して頑健であるべきだ——という前提を忘れてはならない。


経営者にとって何を意味するか

ここから本題である。

円が160円に戻ろうが、150円方向に進もうが、共通して言えるのは「為替の振れ幅が大きい局面が常態化している」という現実である。経営判断は、特定の為替水準を前提にするのではなく、この振れ幅そのものを織り込む形で組まれるべきだ。

具体的に、四つの論点を整理する。

一. 円安前提の事業計画も、円高前提の事業計画も、両方リスク

「円安が続く前提」で輸出戦略を強化した企業は、円高方向の急変で利益が吹き飛ぶ。「円高が来る前提」で輸入の前倒しを進めた企業は、円安方向の継続でコスト負担を抱える。

どちらの方向にも大きく振れうる局面では、特定の方向に賭けない経営判断が基本になる。具体的には、為替予約・通貨建て契約の比率調整・自然ヘッジ(輸出と輸入のバランス)の強化など。

これは退屈な答えに聞こえるかもしれないが、退屈な答えこそが、こういう局面では正しい。

二. 為替に翻弄されない事業構造への移行

長期的には、為替の動きそのものから事業を切り離す方向の構造改革が効く。

たとえば、海外取引の現地通貨建て比率を上げる。海外売上の現地での再投資比率を上げる(円換算しない)。仕入れの地理的分散を進める。これらは一夜にできる話ではないが、為替の振れ幅が大きい時代に向けて、3〜5年かけて移行する価値のある方向性である。

三. AI導入による意思決定の高速化

為替が大きく動く局面では、判断の速さが利益と損失を分ける。

為替の動きを毎日追って戦略を調整するのは、専任の財務担当を持たない中小企業には現実的でない。しかしAIを使えば、為替動向のモニタリング、影響シミュレーション、対応策の比較検討を、従来の3分の1の時間で済ませられる。

中小企業向けのAI導入支援についてはこちらで詳しく扱っているが、為替リスク管理は、AI導入の効果が最も明確に出る領域の一つである。

四. 外資との取引関係を持つ企業にとっての逆転可能性

円安局面では、外資から見た日本のコストが下がる。これは外資の日本進出を後押しし、日本企業にとっては「外資との取引機会」が増える局面でもある。

逆に、円高方向に大きく振れれば、この機会の窓は急速に閉じる。私が運営するJapan Gatewayで外資の日本進出支援をしていて感じるのは、まさにこの点である——為替の窓が開いている間に動く外資企業と、判断を先送りする外資企業の差が、ここから数年で大きくなる。

日本企業側にとっても、この局面で英語対応・契約整備・国際取引の体制を整えておくかどうかで、2027〜2030年のチャンスのつかみ方が決まる。


結論——予測の精度ではなく、判断の枠組み

私は「円は160円方向に戻る」と読んでいる。根拠は四つある。日米金利差、構造的貿易赤字、中東情勢、過去の介入パターン。

しかしこの読みは外れる可能性がある。Fedの急転換、中東の沈静化、地政学ショック——どれが起きても、為替は別の動き方をする。

重要なのは、自分の読みの精度ではない。読みが外れた場合でも事業が回る経営判断を組んでおくことである。

為替予測をする経営者ではなく、為替に翻弄されない経営者を目指す。介入のニュースに一喜一憂するのではなく、振れ幅の大きい時代を所与として、それでも回る事業構造を作る。

これが、いま考えるべきことだと思う。


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本稿は筆者の個人的見解であり、投資助言・財務助言を目的とするものではありません。為替動向は本稿執筆時点(2026年5月6日)の情報に基づくものであり、将来の動きを保証するものではありません。投資判断は読者自身の責任で行ってください。

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