最近、こんな相談をよく受けます。「AIで本が作れるらしい。でも、何から始めればいいかわからない」。
ちょうどいい機会なので、正直に書いておきます。私は実際に、AIを使って英語の実用書を2冊作り、Google Playブックスで販売しました。きれいごとではなく、つまずいた場所も含めて、最後まで通した人間として書きます。
結論:AIで本は作れる。でも「丸投げ」では売り物にならない
先に結論を言います。AIで本は作れます。でも、AIに丸投げしただけのものは、まず売れません。ここを勘違いすると、時間だけが溶けていきます。
なぜそう言い切れるのか。1冊目で痛い思いをしたからです。
1冊目が教えてくれた、いちばん大事なこと
最初の1冊は、あえて自分の専門外を選びました。デスクワークの体をヨガマット一枚で整える、という英語の健康実用書です。AIにリサーチさせ、執筆させ、私が手を入れて出しました。
正直に言うと、AIが最初に書いてきた原稿は、よくできていました。よくできていたのですが、危うかった。
「ジムのトレーニングがあなたの体を密かに破壊している」「医者が絶対に言わない真実」——そういう、いかにも売れそうな煽り文句が並んでいたのです。読み物としては威勢がいい。でも、事実として怪しい断定や、専門家を貶める表現が混じっていました。健康の本でこれをやると、読者の体を傷つけかねないし、何より信頼を失います。
私は片っ端から直しました。断定を「一説では」に落とし、業界批判を「専門家のケアには価値がある、ただし限界もある」に書き換え、冒頭に免責を置く。AIが書いた華やかな部分を、地味で正直な記述に戻していく作業でした。
そして、はっきり気づいたのです。AIが上手に書ける部分には、ほとんど価値がない。ネット上の平均的な情報を、平均的にまとめ直しているだけだからです。価値があるのは、AIには書けない部分——つまり、私という一人の人間が、自分の経験と判断で「これは違う」と言える部分だけでした。
これは痛みとして学んだ教訓でしたが、裏を返せば希望でもありました。
2冊目で、それを逆手に取った
2冊目は、自分にしか書けない領域を選びました。「外国企業のための日本市場参入ガイド」です。
私は商社に8年いて、海外の製品や企業を「これは扱う、これは断る」と日本側で品定めする側にいました。その後は日本企業の役員として、外国のベンダーから売り込まれる側にも座りました。門の内側と、買い手の内側。その両方を見てきた人間は、そう多くありません。
今回もリサーチと下書きはAIにやらせました。でも、芯には私の経験を通しました。たとえば——日本の意思決定で本当に効くのは、窓口担当者への圧力ではなく「担当者が社内で得をする設計」だということ。上場企業が、儲かるか分からなくても提携や出資に動くのは、そこに「発表できる価値」があるからだということ。こういう話は、レポートを百本読んでもAIには書けません。その席に座っていた人間にしか書けない。
作業は、1冊目より圧倒的に速く、質も上がりました。同じ道具(AI)でも、人間が注ぐ中身で結果がまるで変わる。当たり前のようでいて、実際にやってみないと腹に落ちない発見でした。
技術的な落とし穴:EPUBで必ずつまずく
もう一つ、これから挑戦する人のために正直に書いておきます。本のファイル形式(EPUB)で、必ず一度はつまずきます。
私は実際、全ページが空っぽのファイルを作ってしまい、ストアの審査で弾かれました。原因はファイル生成時の細かな設定ミスでしたが、見た目では気づけません。専用の検証ツール(EPUBCheck)を通して、エラーがゼロになるまで確認する。この一手間を省くと、審査ではねられて時間を失います。
AI制作だと、隠さず書く
もう一点。Google PlayもKoboも、AI制作物の申告を求める方向に進んでいます。だから私は、商品説明にも本文にも「AI支援で制作した」と明記しています。
隠すよりも、開示したほうが結局は安全で、しかも誠実です。むしろ、どこまでをAIがやり、どこからが人間なのかを公開することが、この実験のいちばん面白いところだと思っています。
「Anadigi Human」という働き方
2冊作って、自分の立ち位置に名前をつけました。「AnadigI Human(アナデジ・ヒューマン)」。アナログ(生身の経験)とデジタル(AIの処理力)のあいだに立つ人間、という意味です。
AIは人間の仕事を奪うと言われます。でも私の実感は少し違う。AIは、人間にしか出せない部分を、くっきり浮かび上がらせる道具でした。平均的なことは全部AIがやってくれる。だからこそ、平均から外れた経験・判断・覚悟だけが、人間の価値として残る。これは出版に限らず、コンサルでも、脚本でも、あらゆる知的な仕事で同じことが起きると思っています。
本は「商品」ではなく「入口」
最後に、これは商売の話でもあります。日本市場参入の本を書いたのは、私自身が「Japan Gateway」という形で、外国企業の日本進出を支援しているからです。本そのものを売って儲けるためというより、本をきっかけに人とつながるための入口として設計しました。AIは、その入口を驚くほど安く作れる道具です。
「AIで本を作ってみたい」「日本市場への参入を考えている」「自分の事業をAIでどう動かすか壁打ちしたい」——そんな方は、お気軽にご相談ください。考えるところから、一緒に整理します。
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