パスワードは変えられる。親の住所は変えられない

「世界では個人情報はどの程度漏れていますか?」

Geminiに聞いてみました。返ってきたのは、数百億件という桁の大きな話と、パスキーや認証アプリといった対策の一覧でした。

どれも、自分のスマホを自分で操作できる人に向けた話です。でも、私が真っ先に考えたのは親のことでした。

パスワードは変えられます。でも、親の名前、生年月日、住所、何十年も使ってきた固定電話の番号は、簡単には変えられません。漏れたあとで効いてくるのは、たぶんこちらのほうです。

もう「漏れているかどうか」を心配する段階ではありません

数字は3つだけ見ておきます。

  • 世界:セキュリティ企業Surfsharkの集計では、2004年以降に漏れたアカウントは232億件。紐づくデータは578億件です。
  • アメリカ:ITRC(個人情報窃盗リソースセンター)によると、2026年上半期の被害通知は4億7,120万通。2025年1年分の2億9,750万通を半年で超えました。ただし、そのうち推計2億7,500万通はCanvasという教育サービス1件によるものです。
  • 日本:マクニカの調査では、2026年1月から10月27日までの不正アクセスによる流出は延べ3億2,900万件。2024年は370万件でした。10月には佐川急便が、最大で延べ約5,323万件の顧客情報が流出した可能性を発表しています。

どれも延べの数字で、人数ではありません。同じ人が何度も数えられています。それでも、結論は動かないと思います。宅配便を受け取り、通販を使い、病院や薬局に通っている親の情報が、どこにも漏れていないと考えるほうが無理があります。

なので、この記事は「もう漏れている」という前提で進めます。

880万人分の入口は、従業員2人の会社でした

今年いちばん印象に残った事件があります。デンマークの住民台帳から、約880万人分の氏名、住所、個人番号が抜き取られました。

デンマークの人口は約600万人です。人口より多いのは、亡くなった人と国外に移った人の記録も台帳に残っていたからです。

入口は、台帳を検索する権利を持っていた民間企業のアカウントでした。報道によると、この会社の登録上の従業員は2人。9月10日から20日までに約1,400万回の自動検索が走りました。

見つけたのは、高度な監視システムではありません。利用が異常に多いことを示す請求書に職員が気づいたのが、発覚のきっかけと説明されています。

少なくとも3つのアカウントでパスワードが「123456」だったとも報じられています。ただし、これが侵入経路だと当局が認めたわけではありません。

この事件から、介護の家が受け取れることは2つあります。

ひとつめは、親がどれだけ気をつけても関係がないということです。2026年版のVerizonの調査では、分析した情報侵害の48%に取引先などの第三者が関わっていました。前年は30%です。親の情報は、親の知らない会社の、知らない担当者のパスワードに守られています。

ふたつめは、情報は本人より長く生きるということです。親を見送ったあとも、親の記録はどこかに残り続けます。

親の情報は、電話になって帰ってくるかもしれません

警察庁の暫定値では、2026年上半期の特殊詐欺は22,031件、被害額は1,816.2億円でした。1日あたり10億円です。65歳以上の被害は9,230件、817.8億円にのぼります。

中でも目立つのがニセ警察詐欺です。認知件数は70代が最多の869件で、被害に遭った1件あたりの平均は1,163.9万円。最初の接触の98.2%は電話でした。

もうひとつ見ておきたい数字があります。警察が把握した「予兆電話」が、半年で119,778件。住所、氏名、資産、使っている銀行を探る電話のことです。流出を待つまでもなく、親の口から直接聞き出そうとしてきます。

名簿の話も、昔話ではありません。個人情報保護委員会は2025年に、特殊詐欺グループへの名簿提供に関わった名簿業者2社に、命令や勧告を出しました。うち1社は、警察から連絡を受けて相手を認識したあとも提供を続けていたとされています。

正直に書いておくと、ある企業から漏れた情報が、ある1本の詐欺電話になったと個別に証明するのはむずかしいです。私が言えるのは、個人情報が名簿になり、詐欺グループに渡るルートが現実にあるということまでです。

では、どう守るか。警察庁の資料に、はっとする一文がありました。要約すると、犯人と接触してしまえば誰でもだまされるおそれがある、だから接触そのものを仕組みで断つことが重要だ、という内容です。

親に「気をつけてね」と言うのは、やさしいけれど、対策にはなっていないのかもしれません。

今週やることを、順番に6つ

1. 固定電話の国際電話を止める

海外と電話をしない家なら、これが最初です。国際電話不取扱受付センター(0120-210-364)に申し込むと、無料で休止できます。対象は固定電話とひかり電話で、IP電話は対象外です。条件は申し込みのときに確認してください。

2. 知らない番号を、見えるようにする

NTT東西では、70歳以上の方、または70歳以上の方と同居している契約者は、ナンバー・ディスプレイとナンバー・リクエストが無料です。家族が代わりに申し込むこともできます。NTT東日本は0120-722-455、西日本は0120-931-965です。

自動録音機能つきの電話機は、自治体が補助している場合があります。親の住む市区町村に聞いてみてください。

3. 親のスマホに、警察庁推奨アプリを入れる

詐欺に使われた番号をブロックできる無料アプリがあります。国際電話の一括ブロックはAndroidのみです。偽アプリもあるので、警察庁の特設ページからたどってください。

4. 紙を1枚、電話のそばに貼る

書くことはこれだけです。

  • 警察はSNSで連絡してこない
  • 警察手帳や逮捕状の画像を送ってこない
  • 捜査のためにネットバンキングの開設や送金を求めてこない
  • 住所、家族のこと、貯金、銀行は電話で答えない
  • 警察を名乗る電話は切って、最寄りの警察署に自分でかけ直す

実在する警察署の番号が表示される手口もあります。画面の番号は信用しない、と書き足してください。

5. 親のメールアドレスを調べる

親に断ったうえで、Have I Been Pwnedにメールアドレスを入れてみます。iPhoneなら「パスワード」アプリの「セキュリティ」、Googleなら「パスワード チェックアップ」でも確認できます。

載っていたら、そのサービスと、同じパスワードを使っている他のサービスを変えます。載っていなくても、知られている流出に含まれていないというだけで、安全の証明にはなりません。

6. 親の情報を預けている先を書き出す

通販、会員カード、宅配、病院、薬局、介護事業所、見守りサービス。思いつくだけ紙に書きます。使っていないものは退会し、親を見送ったあとの解約リストにもなります。

自分のアカウントの守り方は、マイランキングVol.5とVol.6に書きました。

AIの答えは、そのまま親に渡さないでください

最初に書いたGeminiの答えは、そのままでは記事にできませんでした。別のAIも使って資料と突き合わせると、直すところがいくつも出てきたからです。

Geminiの答え確かめた結果
Googleのダークウェブレポートで確認できる2026年2月16日に提供終了。Google自身のAIが、終わった自社サービスを勧めていました
パスキーでフィッシングは構造上100%無効化強い対策ですが、パスワードなど別のログイン手段が残っていれば、そこを狙われます。100%とは言えません
不正アクセスの約8割は、盗まれたIDやフィッシングから始まる出どころを確認できませんでした。Verizonの2026年版では、最初の入口の1位は脆弱性の悪用で31%。認証情報の悪用は、最初の入口としては13%、攻撃の途中まで含めると39%です
身長・体重・瞳の色まで盗まれるケースが増えている身体的特徴は漏れたデータの約0.06%。増えているかどうかは確認できませんでした
約1カ月で世界の3億2,000万人以上の情報が盗まれた確認できなかったので、この記事では使っていません

ひとつ目が、いちばん考えさせられました。AIの文章は、終わったサービスのことも、いま使えるかのように同じ調子で語ります。読むだけでは見分けがつきません。

私はAIを、毎日めいっぱい使っています。だからこそ確かめます。親の暮らしに関わることなら、なおさらです。

止められるのは、漏えいではなく電話です

企業の漏えいを、私たちが止めることはできません。親の名前も、住所も、もう取り戻せないかもしれません。

でも、犯人の電話が親に届くまでの道は、家族が狭くできます。しかも、ほとんど無料です。

今週末、0120-210-364に1本電話をかけてみてください。この記事を読んだ意味は、それで十分にあります。


私は「仕事と介護の両立」をテーマに、企業向けの講演・研修を行っています。ご関心があればこちらからご連絡ください。

出典

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